川と石

町の北側にある川は、隣町との境界線だ。橋は最近新しくなり、対岸へ渡る人々も随分多くなった。新しい橋に浮かれる者とは対照的に、岸では浮かない顔つきで考え事をする者があちこちに座っていた。フィリップもその中の一人で、川に石を投げながらつぶやいていた。


「新しいことを発見したと思ったら、もうすでに誰かが知っていることだったし、新しいことを思いついたと思ったら、もうすでに誰かが実行してることだったし、僕の毎日の新しさなんて、みんなにとって少しも新しくないのかと思うと、すっかりやる気をなくしてしまうよ!僕はこのまま使い古された日常の小さな山谷に一喜一憂しながら、その山谷を大きくする影響すら持たず、ただ土に埋もれていくのかな。だとしたら、僕の人生ってなんてくだらないのだろう!」 

投げられる石は、次第に大きくなっていく。

「本当はもしかしたら、僕の発見が今までにないものかもしれないんだけど、過去が今を食べるスピードが速すぎるから、それを調べているとすっかり過去に飲み込まれて、僕も昔いたそのへんの誰かのひとりにされてしまうんだ。あぁ、せめて過去がもう少しゆっくりと僕らを追ってくれればいいのに!そうすれば、僕らの訳もない焦りの芽生えを抑えることが出来るのに!」
 
とうとう投げる石がなくなると、フィリップは立ち上がって歩き始めた。
 
「石を投げれば、川は一瞬混乱し、水の流れを変える。でも石が川底に沈んだ後は、また何事もなかったように元の流れに戻る。僕らの様な平凡な人間の影響力って何て小さいんだろう。」